美容師に聞くアシスタントの育て方 | モチベーションのキープが肝心
サロンに長く在籍していて、その人柄や技術が認められたスタイリストは、アシスタントの教育係になる機会があるでしょう。
そうして初めて、アシスタントを育てるスタイリストには、普段のサロンワークとは違うプレッシャーや、「人にうまく教えられる自信はない…」という気持ちがあっても当然ですよね。
そこで今回は、実際にアシスタントをスタイリストまで育て上げた経験を持つ美容師にヒアリングを行い、“のびる”アシスタントの育て方について、情報をまとめてみました。
- ・初めてアシスタントを育てるけど、うまくできるか不安…
- ・最近アシスタントの教育係になったけど、うまくいかない…
上記のような悩みを持つスタイリストは、ぜひ参考にしてみてください。
※ヒアリング対象の美容師 74名
美容師がアシスタントを育成するうえで「難しい」と感じるコト
- 【1】働き方への考えや価値観にギャップがある
- 【2】アシスタント1人1人の性格の把握
- 【3】アシスタントのモチベーションキープ
教育係の経験を持つ美容師に対し、アシスタントを育成するうえで「どんなことが難しかった?」と聞くと、特に上記3つの事柄に意見が集中しました。
基本的には、技術の教え込みではなく、新米アシスタントとのコミュニケーションに関することで、壁にぶつかることが多いようです。
【1】働き方への考えや価値観にギャップがある
10歳、20歳も年齢が離れていれば、「話が噛み合わない」、あるいは「自分の考えがうまく伝わらない」というジェネレーションギャップが生じることは想像しやすいですよね。
しかし実際は、少し自分がアシスタントより年上であるだけでも、ジェネレーションギャップは生じてしまうことがあるのです。
「自分のときはこうだった」という考えを、アシスタント育成において押し通すことは、得策ではありません。
「私たちが新人のころはこうだったから、皆もこうするのが当たり前でしょう!」なんて叱り方をすれば、アシスタントから「分からず屋のイヤな先輩だな…」と反感を買ったり、苦手意識を持たれたりして当然です。
もちろん同じサロンで働く以上、サロンの方針に従って働いてもらわなくては困りますが、だからといって教える側の意見が絶対的に正しいということを前提に、指導を進めてはいけません。
スタイリストとアシスタントのギャップを埋めるためにも、アシスタントの人となりを理解するためにも、アシスタントの働き方に関する考えや、様々な価値観には必ず耳を傾けましょう。
【2】アシスタント1人1人の性格の把握
個人経営など小~中規模のサロンでは、マンツーマンでアシスタントの指導に入ることが一般的です。
ですが、全国にたくさんの店舗を展開しているような大規模サロンでは、1回のタイミングで入社してくるアシスタントの数が多く、1人のスタイリストが2~3人の新人アシスタントを受け持つこともあります。
“一対多数”の指導では、なかなか1人1人の働きに目を向けられなかったり、同じ内容の指導でも受け取り方が違ったりして、マンツーマン指導より「困ったな」、または「難しいな」と思う回数がずっと多いでしょう。
1人で複数のアシスタントを育てる時は、まず比較をしないことが大事です。
「○○さんも同じ日に始め出したのに、あなたはどうしてできないの?」というニュアンスを含めた叱り方は、時にアシスタントの心を深く傷つけて、美容師の仕事に対するやる気を削ぎ落としてしまいます。
育てる側の伝え方も、育てられる側の受け取り方も千差万別で、完全に均衡をとることは正直難しいですが、とにかくも育てる側は、”アシスタント同士を比較するような伝え方を、絶対にするべきでない”と、念頭に置いてください。
そして、これはマンツーマン指導の場合も同様ですが、新人アシスタントの仕事に対すること以外の考えを知ったり、そして何か悩み事を持った時に持ち出しやすい関係性を作ったりするために、仕事以外で一緒にいる時間を設けてみてください。
ちょっとご飯に誘ったり、お茶に誘ったり、そういう機会です。
一緒にいる時間を増やす中で、公私ともに信頼しあえる関係性になることが、1番理想的なのです。
【3】アシスタントのモチベーションキープ
アシスタントの仕事へのモチベーションは、アシスタント本人に備わる”やる気”だけではなく、置かれている環境にももちろん左右されます。
そして、アシスタントを育てていくうえで「何が1番難しく、そして重要であるのか?」、それはこのモチベーションキープだと言っても過言ではないのです。
次の項目では、アシスタントのモチベーションをキープするためのポイントについて、さらに詳しく触れていきます。
アシスタントを辞めさせない!モチベーションキープのためにできるコト
今回、ヒアリング対象とした美容師からは、「モチベーションを保ちやすい、そんな環境にすることが大事」という意見が、非常に多く集まりました。
美容業界に限らないことですが、仕事へのモチベーションが保てなければ、新人はすぐに辞めてしまう傾向があります。
“急な退職者が出ると困る”という、経営上の都合も無くはないですが、やはりせっかく「美容師になりたい」という夢を持って、同じサロンに入ってきてくれたのに、直ぐに辞めてしまうのはお互いにとても寂しいものです。
以下では、教育係のスタイリストができる範囲で、アシスタントのモチベーションをキープするための方法をいくつかお伝えします。
- 【1】できるだけ叱らない、叱る時も強い言い方をしない
- 【2】できたことをきちんと褒める
- 【3】レッスンのカリキュラムを細かく組む
- 【4】レッスンが無い時は早く帰ってもらう
- 【5】役職をあたえ、仕事にやりがいを持たせる
【1】できるだけ叱らない、叱る時も強い言い方をしない
美容師へのヒアリング結果では、「育てるアシスタントを叱らない」という意見が意外にも多いことが分かりました。
これは全く指摘をしないということではなく、「改善すべきだよ、間違っているよ」と伝えたい時は、その事実“だけ”をシンプルに伝えて、怒りの感情は介入させないほうが、アシスタントが指摘を受け入れてくれやすいという、経験値に基づく意見でした。
「ここはしっかりと伝えなくてはいけない!」ということも、決して強い口調では伝えないように心がけたほうがいいそうです。
【2】できたことをきちんと褒める
自分の責任でアシスタントを育てていれば、そのアシスタント1つ1つの動きが気が気でなく、どうしても課題点ばかりが無意識に目に入ってくると思います。
それはいけないことではないですが、できないことばかりを伝えられると、アシスタントは「自分は何もできないんだ…」と自信を失くし、働くモチベーションも低下してしまいます。
できないことばかり指摘するのではなく、日々の業務の中でいいことをした時、レッスンの課題を乗り越えられた時などは、その都度積極的に褒めることが大事です。
アシスタントに、着実にステップアップしている事実を伝えてあげましょう。
【3】レッスンのカリキュラムを細かく組む
レッスンのカリキュラムを教育係が組む場合、1つ1つの到達点への距離が短くなるように、できるだけ細かく組むことが推奨されます。
最終的なゴールは同じでも、それまでの過程に達成ポイントがたくさんあれば、アシスタントの学ぶ姿勢は維持されやすいです。
同じように、サロンワークの目標をアシスタントと決める時も、月目標・週目標・日目標と、細かく分けて考えるとよいです。
“アシスタントが毎日何らかの手応えを感じられる環境”を、サロン全体で整えていけば、アシスタントが成長しやすいです。
【4】レッスンが無い時は早く帰ってもらう
ひと昔前まで、サロンが閉店した後も、深夜12時近くまでレッスンに励むアシスタントの姿が、当たり前のように見られました。
今もそういうアシスタントはいると思いますが、「アシスタントは夜遅くまで練習するべき」とか、「アシスタントが休みを取るのはいかがなものか」など、スタイリストが昔に通ってきた固定概念を、現代のスタイリストに押し付けるのはよくありません。
先ほども述べたように、働くことに関する考え方・価値観には、世代や環境で大きな差があります。
世間一般的に問われるようになった「意味もなくダラダラ残業するのはナンセンス」という考えは、美容業界でも拡大しています。
レッスンは無い日は早く帰ってもらう、規定通りの休みはちゃんと取らせるなど、勤怠上の基本的なこともアシスタントのモチベーションキープには必要不可欠です。
【5】役職をあたえ、仕事にやりがいを持たせる
アシスタントに何らかの役職を与えることも、モチベーションのキープ、もしくはアップに効果的です。
アシスタントに与える役職の例を挙げるなら、トリートメントが得意なケアリストやヘッドスパが得意なアシスタントにはスパニストなど任せられる役割です。
ハサミを持てなくてもできるアシスタントの仕事に、何かよい感じの”肩書き”を考えて付けてあげて、「サロンの一員である」という気持ち、「サロンに貢献している」という気持ちを芽生えさせます。
「私なんて、先輩スタイリストのオマケみたいなものだから…」とか、「雑用係みたいなものだから…」と、事実以上に自己肯定感が低いアシスタントのモチベーションを、自然にサポートすることができます。
【まとめ】アシスタントを育てて良かったと思える日
この記事で紹介したことを積極的に実践しても、アシスタントの育成は順風満帆とはいかないかもしれません。
伝えたいことがうまく伝わらなかったり、アシスタントの悩みにどう対応していいか分からなかったり、思い悩むことが色々とあるでしょう。
そんな時は、”自分がアシスタントを育てている”という意識だけでなく、“自分もアシスタントに育てられている”という意識を持つようにすれば、重たい気持ちを少しは楽にできるはずです。
アシスタントを育てる悩みを1人で抱え込まず、先輩スタイリストやサロンオーナーに逐一相談して、サロンの共通認識にすることが大事です。
74人の美容師に対して行ったヒアリングの最後の項目に、「アシスタントを育てて良かったと思った瞬間は?」と加えたところ、「お客様から褒められているのを見た時」という意見以外に、「スタイリストデビューした時」という意見が非常に多く見られました。
数年間、自分が教育係を担当したアシスタントが、ついにスタイリストデビューを達成した日の喜びは、これまでの苦労や悩みに決して負けない、大きなものであるようです。
初めて教育係を担当することになり不安が大きいスタイリストも、指導に行き詰っているスタイリストも、「自分とサロンで育ててきたアシスタントがスタイリストデビューする日」を目指して、アシスタントと一緒に1歩ずつ、焦らずに進んでいけばいいと思います。